『心の社会』-「あの」AI(人工知能)の父、マーヴィン・ミンスキーによって認知のメカニズムが語られた書。
もはやレジェンドになったダートマス会議(1956年)、ミンスキーのほか、ジョン・マッカーシー、クロード・シャノン、ノーム・チョムスキー、ジェローム・ブルーナーら当時の人工知能/認知科学研究のフロントランナーが結集。まさにミンスキーは時代の子であったといえます。
ダートマス会議の後、ミンスキーはあのMIT人工知能研究所ではシーモア・パパートらと領域を拡大し続けた、巨人でもあります。
本書では、その成果の一つ、「心」の機序について、語られます。
ミンスキーは、心をモジュールの集積に見立てます。任意のふとした動作も、膨大な工数の行為からを流れるように自然にこなししまうのは、その作業に最適化されたモジュール(=エージェント)が適切に階層化されて機能されているためであると。結果として、心はごく自然に「それ」をこなすのです。ここまでなら、デカルト的要素還元の世界ですが...。
ミンスキー理論の白眉はここからで、エージェントは一定の法則性によって動くのではなく、あたかもヒトが構成する社会のように、相互作用が絶え間なく繰り返されている、と捉える点にあります。文字通り、エージェント間の交渉で相互作用は決定されるのです。
そして、その相互作用の中から仮設物としての「自己」がたち現れるのだと。
とりわけ興味深いのは、割り込み、でしょうか。一つのことを考えていても、それを中断して瞬時にスイッチを入れ替え、用を足したら、もとの考えごとに戻る、といったように。
割り込み理論で説明ができるのは、ある思考の流れの最中にも、それを観察しているエージェントの回路もあり、その相互作用が、こうしたことを可能にするのだと。「代名詞」の存在は「割り込み」に由来するとの仮説も提示され、興味の尽きないところです。
確かに、外国語を喋るときと、母語を話すときとでは、パーソナリティにも変容があるように感じることはしばしばあり、これがミンスキーの「割り込み」を体感する瞬間でもあります。心は、割れたところからも生起している...この他にもカテドラルのように構成されるミンスキーの心をめぐる言説には興趣が尽きません。
これがもう20年近く前の書であるとは!fMRIの実用などで、脳科学、神経経済学にも大きな進展があると予想されていますが、ミンスキーがAI研究で切り込んだ知見は、認知科学の可能性をひらいていたのだと、改めて唸らせれる一冊でもあります。
T.D.
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